Σ-三七型は、戦場投入を目的として量産されていたと思われる38番目の機体群である。特徴としては優れた防御機構が挙げられる。
此度の戦争では1000体を調達し、最前線に投入した。しかし結果は全滅であった。ただの一機さえも戻ってくることはなかった。
原因として考えられるのは防御を重視したゆえの攻撃性能の低さだろう。支給する武器も量産品のショートスピアである以上、機体自体に強力な攻撃性能を備える必要がある。ブースターの搭載を視野に入れてはどうかと上奏を行うこととする。

Σ三七-564Aは、失敗作である。1000体のΣ三八型の中で唯一この機体のみが偶発的にプログラム内に修復不可のエラーを内包。命令に対して「疑問を抱く」ようになってしまった。
結果として左目を欠損したことを切欠に自らの体躯惜しさに逃亡。隊列が乱れたことにより敵の突破を許し、Σ三八型は全滅に至る。
アルディオン東方に居場所はないと察した564Aは渡航船の積荷に紛れエリンディル西方まで密航。その後当てもなく放浪していたところグランフェルデン大神殿神官長ソーンダイクと偶然の遭遇を果たし、冒険者に勧誘される。
言われるがままにグランフェルデンにやってきた564Aは困惑しながらも仲間とともに仕事に取り組んでいく……。
どうやら、「大切な仲間」というのは564Aにとって「戦う理由」に値するようだ。

同時期に冒険者登録したアゼリトリアに申し出て入団。
行く先に困っていたというのもあるが、アゼリトリアの眼にΣ三七-564Aは魅せられた。今まで564Aが遭った人間の眼とは、「道具」「侮蔑」「無関心」により大半が占められており、「興味」「関心」の視線を向けられるのは初めてのことだった。

「999体の同胞のために、私は"何者か"にならねばならない」

新たな風に乗ることでしか見えぬものがある。それに何より「アゼリトリアの隣でならばそれは叶うのでは」と思ったのだ。
この先に、何か自分の得られるものがあるはずだと。
564A──「シア」は未来に向かって手を伸ばす。