人間の中には、日記といって、その日の記録を紙上に残すものがいるという。思考の整理に有用と思われたので、私も模倣してみることにした。

　◯月×日▽曜日、晴れ。長かった航海を終え、ようやくレグナントの地を踏む。少し前に大規模な歴史改変が起きた場所というのもあり、現地の者の記憶に多少混乱が見られた。

　神殿に向かう道中で、ぬいぐるみに擬態して店頭に並んでいた妖精、リードを発見。見たこともない姿だったが、カンテラを所持していたため、おそらくノッカーと思われる。私に運び出して欲しい様子だったので、神殿まで連れて行くことにした。

　レグナント含むエリンディル西方では、アルディオンと違い、冒険者の制度が神殿によって明確に規定されている。そのため、私のように冒険者を志す者は皆、神殿で登録をしなければならない。しかし近年は冒険者の質が落ちているらしく、神殿は新規登録に試験制度を導入することにしたようだ。内容は、試験官であり、異界から来てすぐにも関わらず爵位を得た青年「ボンドルド」との戦闘だった。

　なお、その青年と他のアーシアンとの会話を聞く限り、彼は物語の登場人物の姿になってしまったようだ。奇妙なこともあるものである。

　彼は確かに桁外れの強さだったが、戦闘には不慣れに見えた。こちらの弱さに油断し切った挙句、致命的な判断ミスを連発し、結果的に私たちは勝ててしまった。

　戦うからには全力を持って、誠実に戦ってほしかった私は、彼のことが許せなかった。人間相手に油断されたのが悔しかったのかもしれない。戦闘後も油断したことの反省を全くしていなかったのも気に障ったのだろう。
　年甲斐もなく彼に冷たい態度を取ってしまった。リードがなだめてくれなければ、私と彼との間には、致命的な溝ができていたことだろう。

　私は意地を張ってしまった。人間相手に感情を乱されたことが悔しかった。謝りたくなかった。だから、私は未だ、彼に謝れていない。

　冷静になった今ならばわかる。彼に向かって激昂してしまったのは浅慮だった。これからは、きちんと彼と向き合ってやりたい。

　日記というものはいいものである。ようやく自分の感情をはっきり自覚できたように感じる。

夜も更けてきたので、もう就寝することにする。