ネフティ――それは、彼女の母が最後にこの世に残した呪われし命の炎。邪神トリアラクの瘴気が漂う死の中から、彼女は隻眼のグライアイとしてひっそりとこの世に引きずり出された。母の冷たく、無表情な亡骸の腹から生まれ出でた彼女は、世界の光よりも、まず闇を知る存在だった。彼女の片目はいつも憂いに沈み、見る者に儚げな影を落とす。異形の力を帯びた髪は暗く、まるで邪神トリアラクの意志が宿っているかのように、触れることを拒む冷たさを放っている。その髪は、彼女にとって母の最期の苦しみそのものだった。

「私が母をあの忌まわしい運命へと導いたのかもしれない…」――この重苦しい思いが、彼女の魂の奥底に棘のように突き刺さっている。母の死が自分の罪であると信じるその心の内には、他者には見えない冷たい痛みが渦巻いている。夜毎に繰り返す悪夢の中で、腐敗した母の手が彼女の髪に触れ、囁く声が彼女を責め立てる。「お前のせいだ」と。その声が耳に響くたび、彼女は自らの存在が全ての元凶であるかのように感じ、夜明けと共に祈ることでしかその痛みを和らげる術がない。

生まれ持った異形の姿がもたらす忌避と憎悪の視線から逃れるため、彼女は育ての親と共に、安息のない逃亡の旅を続けてきた。知る者のいない異国の道を彷徨い、無数の星の下、ただ静かに耐え続ける日々。見知らぬ風の吹き抜ける荒野で、あるいは誰も住む者のいない廃村の片隅で、彼女は泣くことも許されず、ただ影のように漂うだけの存在だった。孤独の果てに辿り着いたマジェラニカ大陸も、彼女にとっては過ぎゆく場所にすぎなかった。狩人としてハーヴェンに身を置くまで、「家」と呼べるものはなかったのだ。それでも、彼女は荒野の風と共に息づくこの地を、自らの唯一の故郷と思い始めている。ハーヴェンの大地に根を下ろすことで、彼女はようやく自らの影を赦し、受け入れようとしつつあった。

そして彼女の中に微かに灯る救い、それは育ての親が深く信仰した旅の神、トーテウスへの祈りであった。トーテウスの名のもとに、彼女は不死者の魂を解き放ち、幽界への安息の旅へ送り届けることを己の使命としている。彼女は、母への贖罪の思いをその祈りに込め、魂を浄化するための小さな光を見出している。その光が彼女を包むとき、わずかながら魂が穢れから解き放たれ、彼女の傷ついた心がわずかに癒されるのを感じるのだ。

トーテウスから授かった天恵の力は、彼女の心の最も深い部分を浄める聖なる泉である。不死者の魂を浄化し、彼方の幽界へと導くたび、彼女の胸には、言葉にならない微かな赦しが生まれるのを感じる。それは束の間の安らぎにすぎないかもしれないが、彼女はその瞬間にこそ自らの生きる意味を見出し、母の影から逃れる一筋の道が開かれると信じている。星明かりの下、彼女は誰もいない荒野で静かに祈り続ける。その祈りは、まるで彼女の痛みと孤独が染み込んだ夜空に溶け込むかのように、しんしんと静まり返った大地へと消えてゆく。彼女の祈りの先に、どこか遠い彼方で、母が安らかに眠りについていることをただ願いながら。