孤児院で育ったレプラカーンの女性。
15歳の時に、いつも一緒だった人間の少女であるアイリスと共に孤児院を出た。
レプラカーンの性格故に、15歳で孤児院を出た後は一人で何処かの遺跡や廃墟などで暮らそうと考えていたが、当時13歳だったアイリスが着いてきてしまった為、仕方がなく町の中で生活する事にした。
幸いアイリスには薬師としての才能があった為、以前から良くしてもらっていた薬屋の婆さんの所に転がり込み、アイリスは婆さんの元で薬師として、ドーニャはマギテック協会で復元士として生計を立てて共に過ごした。
しかし、アイリスは人間でありレプラカーンとは寿命が違う為、彼女が75歳の時に先立たれてしまった。一人残されたドーニャは悲しみ、今度こそ何処か人のいない場所で過ごそうと入った廃墟でシナツと出会った。

ヨハンの首鎖
銃口を向けたあの時は、彼が恩人になるとは思わなかった。

聖印(グレンダール)
神へ祈るためでなく、人への恩を忘れぬために。

アビス強化されたバックラー
また会えるだろうか。袖触れ合った商船や、共に冒険をした彼女たち。
それに、あの先輩にも。

　ある日、ドーニャは一つの墓の前にいた。簡素ではあるがよく手入れされており、[アイリス]という名前が刻まれている。
「やあ、元気にしてたかい？アンタは向こうでも相変わらず草をすり潰して薬でも作ってんだろうね。
この前、何とかシナツの命をつなぐことが出来たよ。ヨハンって神官のおかげさ、アイツにはどれだけ感謝してもし足りないさ。何にせよ、これでまたあの子と冒険を続けられる。まだアンタにも土産話が出来そうだよ。
　・・・なぁ、アイリス。実はあの子に後がないってなった時、ウィークリングについて調べてみたんだ。何とかあの子の穢れを払うか、穢れを持ったまま自由に生きられないかと思ってね。そしたらね、寿命についての話が出てきたんだ、ウィークリングはどんな種族が元でも人間と同じぐらいで死んじまうらしい。そう、どっちみちアタシはまたおいて行かれるみたいだ。
　でもねぇ、アタシはもうおいて行かれることを嘆かないって決めたんだ。アンタもあの子も、勝手に突っ走って行っちまうけども。そんな奴らの背中を眺めながら生きていこうって思ってね。だからアイリス、悪いがすぐにはそっちに行けない。ゆっくり待ってな。遅くはなるけど、いつかそっちには行くからさ。」

「久しぶりだね、シナツ、アリシア。」
「相変わらずこっちは空が綺麗だね。サイレックとは大違いだよ。」
「・・・前来た時に話した子がいただろ？ミューティアって娘さ。アンタと真反対な性格をしてるくせに、アンタと同じように冒険に憧れてた。あたしにはどうしてもアンタたちが重なって見えてね、随分と懐かしい気持ちになったもんさ。」
「そいつがさ、先日初めて死んだんだ。幸い、あの子の仲間がすぐに神殿に連れて行って蘇生してもらったから、後遺症は殆ど無かった様だけどね。だからと言って、よかったと胸をなでおろせるほど、あたしはまだ人の死に慣れてないみたいだ。慣れたいとも思わないけどね。」
「それでも、あの子は折れなかった。」
「一度死んで、その恐怖を味わっただろうに、それでもあの子は冒険をすることを辞めないらしい、親の気も知らないでね。やっぱりアンタたちは似ているよ。」
「・・・なぁ、シナツ。あの子はもしかしてアンタの．．．いや、そんな事はどうだっていいね。シナツはシナツで、ミューティアはミューティアだ。どっちも大切な、あたしの娘だよ。」
「さて、そろそろあたしは行くよ。」
「それから、ここに来るのは、今日が最後になりそうだ。ようやくあたしも、アンタたちのところに行けそうだよ。」

　夜も更けた暗い廃墟の中で、ランタンの小さな灯だけを頼りに銃の整備をする。老いて言う事を聞かなくなってきた指先も、この作業だけはかつての様に淀みなく行える。思えばここであいつを拾ってから、随分と遠いところまできたものだ。あの時は、こんなに人生が長いとは思ってもいなかった。シナツを拾って、仲間と旅をして、ヨハンに出会って、シナツが死んで。まさか自分が本気で殺そうとした奴が、恩人になるとは思ってもみなかった。
そんな長かった人生も、もうそろそろ終わりだ。多分、今晩だろう。理由は無いが、何となくそんな気がした。
今更ながら、あいつらには悪いことをする。あいつらは悲しむだろうか？薄情だと怒るだろうか？どちらにせよ、あたしは誰かに看取られるのは柄じゃない。
整備が済んだ銃を抱え、壁に背を預けたまま目を瞑る。
ようやく、あいつらに土産話を聞かせることが出来る。
やはり恐怖は無かった。思い出の場所で、思い出の品を抱え、大切な人たちの事を考えながら眠れるのなら、悪くない。
「あぁ、悪くない人生だったよ。おかげさまでね。」
こうして、彼女の旅は終わりを告げた。

目を覚ますと、見知らぬ場所に居た。
「ここは、天国にしては代り映えがしないね。」
そこまで考えて、ふと気が付いた、老いてから感じていた体の違和感が無くなっている。
視線を落とすと、そこには節くれだった老人の手ではなく、まだ若かった頃の手があった。
どうやら、自分の体は若返っているらしい。それも、ちょうどあの子と出会った頃に。
背中に背負われたジェザイルを取り出し、両手でなでる。
「全く、まだ土産話が足りないって事かい？勝手な奴らだよ、ほんと。」
「いいさ、それならもう一度、旅をしてみるとするかね。今度こそ、あいつらに満足してもらえるように。」
こうして、彼女の二度目の旅が始まった。