遠いひんがしの國からやって来た赤毛の冒険者。元は百姓の家の娘であった彼女は、しかし死に魅入られ、冒険者を志すこととなった。
彼女の故郷で起こった、城主の圧政への反乱。戦力を求める反乱の勢に、父も加わるよう迫られる。だが老いた父を死地に送り出すことを拒み、代わりに戦場へと足を踏み入れたのだ。
そこで目にした、血と激情と、死。命で命を刈り取り合う原始の世界。その状況の一部に加わった彼女は、未知の充足感に打ち震えていた。矢筒に備えていた矢は全て射尽くし、弓も混乱の中何処かへ放り捨ててしまった。初めに貰った刀は早々に折れたので投げ捨てた。そこいらに転がる死体から拝借し続けて、もう何本目になるかも数えていない。弓を取ることも刀を握ることも初めてのことであったはずなのに、妙に身体に馴染む。矢の1本、刀の1本に命を託す拙さに彼女はどうしようもなく幸福を覚えていた。
戦場を駆け回るうち、異様な装いの武士と対峙した。それは、城主から直々に雇われた"冒険者"の傭兵達であった。彼らは見たことの無い武具を振りかざし、見たことの無い呪いで火や雷を起こし、反乱の兵を吹き飛ばした。その中の一人と、彼女は剣を交わしていた。互いに握りしめたその死の具現を、互いの身に打ちつけんと振り降ろす。彼女には経験のないことであったが、まるで逢瀬に胸を躍らせる乙女のような心持ちで死合っていたのだ。
ふ、と異国の剣士が剣を収める。釣られて手を止めた彼女の耳が、目が、少しずつ彼我より他の世界の認識を取り戻していく。ああ、ああ、口惜しい。そう唇を噛んだ。見上げた‎城には勢の旗が、勝利の証が、血の臭いを孕んだぬるい風に揺れていた。
任務の失敗を悟った冒険者の一党が引き上げていく。縋るように彼らに叫んだ。
どうか行かないでくれ、と。
彼らは哀れな死狂いを一瞥し。
ならば、追って来い、と。
それだけだった。否、それで十分だった。
戦の後、彼女は勢からの褒賞も受けず船に乗った。目指すは西の國。あの死と昂揚の待つ世界を求め、彼女は旅に出た。冒険者、彼らが身を置く戦場こそが、私の魂の活ける場所。そう信じて。