｢"丸角兎(あるみらーじ)"を知ってるかい？
ああいや、キラーラビットの亜種の話じゃない。タビットでもない、そういう二つ名で呼ばれる冒険者が居るんだよ。

特段珍しいものでも無いさ。幸運を呼ぶ兎のような冒険者がいる、役に立つことは少ないが旅路を共にすれば奇運幸運に恵まれて土産話に困らない。基本的にはそれだけだ。少しばかり目撃情報が多いくらいだな。

だがなぁ、おかしいんだ。親父は駆け出しの頃に出会ったと言っている。オレも小さい頃にお世話になった。せがれも先日一緒に冒険したらしいんだ。なのに、なのにだ。特徴が何一つ変わっていないんだ、樹人(メリア)でも無いのにだぞ？

目撃情報の全てが食い違わず同じ容姿を指している、数十年、下手すれば百年経つような記録でもだ。その癖二刀流だったとか二挺拳銃だったとか、技師だったとか荷運びだったとか、冒険者としての記述に限ってまちまちなんだ。……な？面白いだろ？｣

いやぁ《マリアの迷宮》は強敵でしたね……
冗談抜きだよコレ。入口出口無しの完全閉鎖型迷宮で魔剣が気紛れで招いたり転移陣の行先がバグって入り込んだりするから対策は困難。同様に侵入手段が限られるから準備とまとまった戦力を整えて突入することができない。しかも内部は妙ちきりんな文化の根付いた王国に高難易度ダンジョン。加えて時間の流れがおかしくなってるらしく迷い込んだ人々の時間軸もバラバラ。下手すると並行世界から招かれてるヒトも居るかもね。遺骸の見付からなかった冒険者失踪のいくらかはここで犠牲になったのかも……。

ともあれ。ようやく見付けたよ不老の魔剣、《白のマリアブラッド》！
司るのは万物の停滞と時間の停止。万物の進行と時間の加速を司る《赤のマリアブラッド》と対になって《マリアの迷宮》を形成していた魔剣だ！
これでア■ミさんを置いていく心配も無くなったし……■ンチ■ン君はこう、せっかくの長寿を無駄にしないようにしてくれると良いんだけどね……

……生命を司る魔剣だったらフ■■■君を蘇らせてあげられたのにな、と残念に思ったのはナイショ。神様達に怒られちゃうし。

そういえば。マリアの迷宮の出口を作ったときにはぐれちゃったけれど、あのレプラカーンさんは無事だろうか。《赤》の呪い祝福で命が危なかったワケだけど……《白》の力で助けられてたらいいなぁ。

数百～百数十年前(覚えてるわけねーっすよ！)に生まれ、捨てられ、孤児院で育ったレプラカーンの少女。
責任感が強く、最低限の体力を身に付けるや否や冒険者の荷運び･夜番として生活費稼ぎを始めた。必要とした分を除き全てを孤児院へ還元。稼ぎ頭としてある程度慕われ貧しいながらも幸せに過ごしていたが───あるとき同行した冒険者一党が転移の魔方陣を起動してしまう。

ひとり迷い込んだ先は《マリアの迷宮》。幸運にもダンジョン領域から生きて脱出するも、その幸運故に《赤のマリアブラッド》に祝福されてしまう。2倍速での行動を可能とし100倍速で成長させるそれは、比較的長寿であるはずの彼女の寿命が微塵になったことを示していて。
《マリアの迷宮》は本来数年から十数年をかけて攻略するもの。数日単位での攻略は不可能だと述べた鎌使いの冒険者は、泣きじゃくる彼女を救うため強硬攻略を決意する。

そうして。結論から述べれば、彼女は救われた。
《白のマリアブラッド》の力により、相殺と言うには過剰に掛けられた停滞･停止の力が彼女を理の内に繋ぎ止める。

……常時行動速度がほんの少しゆったり(0.8倍)になる祝福(のろい)、緩やかながら際限無く成長し続ける呪詛(しゅくふく)、そして一切の老化を経ない呪縛(すくい)の三つを除いて。

帰り着いた時には数年が経過していて、迷宮の中で過ごした一月に満たぬ時間は彼女を成熟した姿に変えていて。孤児院に彼女の居場所は無かった。……悔いるように、償うように、冒険の報酬をほぼ全て孤児院にひっそりと寄付し……自らを知る者が一人もいなくなると、アテもなく放浪を始めその先々でも同じように。

かといって、彼女は不幸ではなかった。恒久･無限の時を苦痛と感じるには彼女の精神性は幼すぎた。
育つことなき心で、いつまでも旅路を楽しみ、幼少の初恋を、あるいは恩人への憧憬を重ねるように少年少女に焦がれ憧れる。……叶うことは無いと知っていながら、自らの心を潤すための要素と割り切る。

生きるっすよ。救うっすよ。あの人がしてくれたように、救われた分だけ続けるっす。
あの日あの時から、ワタシは冒険者っすから！

彼女は永久に知らない。自らの歩んだ無数の冒険が無ければ、その恩人は生まれず自らが救われることはなかったと。

丸角兎：角(つの)が丸(まる)い、のではなく丸(まる)であり角(かく)。不定、とらえようのない、あり得ない事を指す。

マリアの迷宮･マリアブラッド：公式リプレイ｢モンスター☆ハッカーズ｣より。改変が加えられており、本来打倒することで主となることができるのは《赤のマリアブラッド》のみ。

最後のは何？：彼女は英雄ではない……が、彼女がささやかに貢献し続けた無数の冒険は確かに世界を救っている。
成したのは英雄(たにん)であっても、不可能を可能としたのは彼女に他ならない。……もちろん、無数の旅路から一人でも冒険者が欠ければ成し得なかった、と書き加える必要こそあるが。
また、ルーニーの両親が所属する商隊は、彼女の護衛により紙一重で致命的な損害を逃れ続けていた。

マチェーテ：長剣の先端を折り落とし形状を整えたもの。重量や遠心力による切断、魔力の刃を形成しての刺突に用いる。
データはブロードソード相当。
ソードオフ：トリガー際まで銃身を切り詰め取り回し易くした短銃。近-零距離での運用前提の設計。
データはサーペンタインガン相当。
ショートバレル：申し訳程度にバレルを残した両手銃、狙撃性は劣悪のため腰だめに使用する。
データはトラドール相当。