アウロラ（暁）の部族、ヒエムス（冬）の集落の、歌唱祭を取り仕切る一族の、長姉に生まれる。
　　産声からして、のんびりとしたものであり、生来の呑気者だった。
　　のんびり過ぎて、死産かもしれないと周りが大慌てするほどであったとか。

　　生来の性質からか、非常に時間感覚が緩く、朝の陽ざしが心地よいからと夕方まで日光浴をしていることもしばしば。
　　下の弟妹達からは、慕われつつも「この姉を参考にしてはダメだ……何とかして支えないと」と思われていた。

　　ある日、集落に立ち寄った行商人に付き添った楽団から、外の世界の物語を聞く。
　　太陽が照らす彼方、夜に眺める星月の行く先、流れる雲の果て。――見たことも、聞いたこともないもの。
　　それらを探しに行きたいと、のほほんとした心に、一握りの熱が灯った。

　　常日頃から、自分を支えてくれる弟妹たち――とりわけ、自分のすぐ下の妹は、自分よりもとても器が大きいものであると思っていた。
　　自分がいなくなっても、彼女なら、集落を導いてくれるだろう、と。
　　誰も彼もが忘れた頃に、２０年間、あれこれと準備した彼女は、集落を出奔したのであった。

　　とりあえずは、海を見よう、と。海がある方角（棒を突っ立てて倒れた先）に向かうことにした。